2022/01/19

インポスター症候群

 今日お話しするインポスター症候群という概念は、自分の能力や実績を認めることができず、まるで今の自分になりすましている偽物・詐欺師(imposter)のような感覚を持っていることです。1978年に命名され、俳優のトム・ハンクスやエマ・ワトソンなどの著名人が自身の体験を告白しているそうです。もう少し軽く表現すると「なんちゃって◯◯」みたいな。

例えば私は専門医を二つと医学博士を取得していますが、専門医のうちの一つと医学博士に関しては、まだ「なんちゃって」の感覚が残っています。他人から見れば、確かに試験を受けたし口頭試問も通ったのですが、他の専門医の先生と比べたら全然知識が少ないし、医学博士を取得した論文なんて、先輩方に助けてもらってなければpublishに漕ぎ着けられなかった、つまり自分の実力で取ったわけではない、と感じてしまっていました。


自分の中で、専門医だったら、専門分野に関してほぼ何でも知っているのが本当の姿。博士だったら自分で研究テーマを見つけて、論文くらいさらっと書いて毎年発表できるくらいじゃないといけない。そんな理想が頭のどこかにあって、そこに合っていない自分は、ペーパー資格こそあるが、なんちゃって専門医、なんちゃって博士だという意識です。そしてそこには、自分の真の実力がバレたら大変なことになるのでは、という恐怖が常に付きまとっていました。


インポスター症候群について知るまでは、自分だけの悩みだと思っていました。しかし、多くの医師、特に女性がこの感覚に苦しめられていると知り、意外だったと同時に、すごく安心しました。だから、このようにブログでバラすことができます笑。


潜在的なインポスター症候群を放置するとどうなるか、思考モデルに当てはめると想像がつくと思います。


C 状況:◯◯専門医

T 思考:自分はなんちゃって専門医で、他の専門医より知識も経験も足りない

F 気分:劣等感

A 行動:知識がないことを隠す、誤魔化す。紹介を積極的に受けないなど、知識を問われるような場面を避ける。

R 結果:専門医としての経験や知識を増やす機会を自ら捨てている


このことに気付きさえすれば、行動のきっかけとなっている思考を徐々に変えて、最終的な結果が変わってくるかもしれません。例えば「自分も一度は専門医と認められるだけの基準は満たしている」、あるいは「今からでも足りないところを補うことは可能かもしれない」などです。


思い起こせば、初期研修後に現在の診療科で専攻医としてスタートした時期、特に外来では同じような状況だったはずです。患者さんに何か聞かれても、答えがわからずにはぐらかし、検査に行ってもらっている間に教科書を調べる、あるいは隣の診察室の先輩に助けを求める・・・そんな毎日でした。でもあの頃は周りの同期も全員そうだったし、「先輩もみんなこうやって経験を積んでいったんだから、大丈夫。わからなければ聞けばいい」のようなインポスター症候群とはかけ離れたポジティブな思考に後押しされていたのでしょう。


専門医に関しても私と同じような状況、つまり「ギリギリ」専門医を取ったけど(この表現も客観的な状況ではなく主観が入っていますが)、知識や経験の裏付けが平均を下回っている人というのは他にもいるかもしれません。というより、平均を下回っているということであれば半分近くいるはずです。でも、そこで劣等感を抱いてしまうのか、全然気にしないかは個人差が大きいと思います。具体的には、もともと自己肯定感が低い人の方が、インポスター症候群に陥りやすいということです。


医師って社会的に見ると成功者なんでしょうが、その分、インポスター症候群のような密かな悩みを抱える人は、実はたくさんいるのかもしれませんね。あなたにも、当てはまることはありますか?

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