2022/12/14

母親になったことを後悔

約4割の母親が子供を産まなければよかったと思ったことがある、という調査結果があります。

その背景には母親としての責任の重さ、母親らしさといった世間の期待などがあるのでしょうか。後悔までいかなくても、「思ってたんと違う」という感覚を持ったことがあるお母さんはもっと多いのではないでしょうか。


私の場合、産まないほうが良かったと思ったことはまだありませんが、私が産んで良かったんだろうかと思うことはよくあります。例えば子供にきつく当たってしまったりした後は、自己嫌悪とともに、こんな母親で子供たちはかわいそう、やっぱり私には無理なんだろうかと落ち込みます。


その根本には、母親とはこうあるべきという理想像があり、自分の中の矛盾が見えるとスイッチが入ってしまうようです。では、自分がどんなお母さんだったら自信を無くさずに済むのか考えてみると、


保育園の提出物などの管理ができていて、基本的には忘れ物をしない

家は片付いている

肌に触れるものは清潔を保つ

家にいる時は栄養バランスの取れた手料理を食べさせる

子供の身長体重を基準値内に収める

虫歯を作らないよう、仕上げ磨きとフロスは365日欠かさず行う

毎晩入浴させて清潔を保つ

アトピーの外用薬を毎日適切に使用する

夜9時半までには寝かせる

テレビや動画の試聴時間はなるべく短く

発達に良い外遊びや創作的な遊びをさせる

教育や、将来役に立つ習い事には金銭や時間を惜しまない

習い事の送り迎えの安全を確保する

自分のできる範囲で怪我や病気から守る

服薬を忘れず続ける

休日は子供が楽しむことを第一にスケジュールを組む

兄妹で不公平感が生じないよう気を配る

きつい口調で叱らない

スキンシップや愛情表現を欠かさない

ダメなことはダメと伝え、正当な理由なしにルールを曲げない


ザッとこんな感じです。

ちょっと医師目線の基準も入っているかもしれませんが、一つ一つをみると、それほど極端な基準はないと思っています。


ここへさらに仕事をする上での基準というものが加わります。子供が生まれる前、手術をバリバリしていた頃と比べるとだいぶ項目が減っていますが、こんな感じでしょうか。


遅刻しない

患者さんに起きる様々な問題に対しては、その時自分にできる最善の対応をする

患者さんや家族の信頼を得るため話をよく聞き、こちらの方針をなるべくわかりやすく伝える

他職種と普段からコミュニケーションをとり、協力体制を保つ

書類などの雑用は貯めない

頼まれた仕事に関しては(できるだけ)嫌な顔をせず引き受ける

誤解の生じにくいよう表現を工夫して指示を出す


このような基準を持っている上で問題になるのが、この一つでも基準に達していないと、つまり100%合格でないと、母親・勤務医として不十分という感覚が活性化されてしまい、自分が望んでいない結果を産んでしまうのです。思考モデルを復習すると、脳内の無意識な考えが気持ちに、気持ちが行動に、行動が結果に結びつくのですが、この場合「母親として不十分」という考えが「自己嫌悪」だったり「がっかり」という気持ちに、その気持ちが子供にキツく当たる、家事をやる気が起きない、といった行動に結びつき、最終的に、やはり自分が母親として不十分であることを証明する、という結果を産んでいるといことです。脳は常に、自分の考えの正当性を証明するような行動を選ぶので、無意識の考えというのは放っておくと危険なこともあるんですね。


このような基準を無意識にでも持っていることは、健全なことなのでしょうか。普段から9割守れている状況なら、持ち続けても問題ないでしょう。でも私の現実はだいたい30−40%でしょうか。疲れていたり体調が悪い時は特に得点が下がります。そうすると毎日、上に書いたような思考サイクルが働いてしまい、子供にキツく当たることも増えてしまいます。


こういう時、自分の列挙した基準の中で優先順位をつけてみてください。その際に、なぜそのような基準ができたのか、よく考えてみることです。その基準が守れないとどうしてダメなのか?そして、その理由の正当性を問うのです。


例えば保育園の提出物をしょっちゅう忘れる母親ってどうでしょう。「ルーズ」「先生に迷惑をかけている」「子供が影響を受けたらかわいそう」という厳しい意見もあるかもしれません。では実際に提出物を忘れるとどうなるのかご存知でしょうか。私は常習犯なのでよく知っているのですが笑、先生が「◯◯の用紙がまだ出ていませんでしたので、◯◯までに持ってきてください」と教えて下さったり、用紙を無くしてしまった時にはもう一枚くださったりして、最終的には遅れて提出はできているのです。先生に余計な手間をとらせていることは確かですが、それもひょっとすると害ばかりではないかもしれません。そこで自ら「ルーズ」などとマイナスなレッテルを貼ることは、そうやって自分を叱咤することで次に同じ失敗をしないで済むのならまだしも、私のような常習者にとっては百害あって一利なしです。それよりも、今後どうやったら提出物の紛失を防ぎ、締め切りに間に合うよう管理するのか、作戦を立てる方がよっぽど建設的で効果もあります。


このようにして、自分でいつの間にか決めている様々なルールには、その裏に「世間の常識」という名の、仮面を被った悪魔が隠れていることが多いのです。世間の常識に何の苦痛もなく従えるならいいのですが、誰にだって不得意な分野や、その人特有の事情というのはあって、そういう理由で世間の常識とは少し違うことをしているだけなのに、劣等感や罪悪感を抱いてしまうというのが我々、特に女性によくみられるパターンなのかもしれません。


自分の中でいつの間にかできた「守るべき基準」が、実はバカらしい理由からできていることも多々あります。ぜひ一度ルールを「それって本当かな?」と疑ってみてください。そして本当に大事な基準と、そうでもない基準を区別し、少しずつ取捨選択できると、徐々に行動や結果に変化が現れるでしょう。


「私ってダメな母親だな」とか「またやっちゃった、何やってるんだろう」というような頭の中の批判的な声というのは、私たちが同じ失敗を繰り返さないよう、脳が大袈裟に警報を鳴らしてくれている結果生じているものです。でも先ほどの思考モデルの例でもわかるように、あまりいい結果に結びつきません。そういった反射的なネガティブな考えを鵜呑みにするのではなく、あ、また脳が大騒ぎしている、と気がつくことができれば、一呼吸おいて冷静に改善策を思いつくことも可能になります。


以前私は保育園の先生に言われる一言一言が批判のように感じて、反射的に言い訳や自己防衛のような反応を示していた時期がありました。今では先生のコメントを一意見としてありがたく聞けるようになり、自分で吟味して必要と思えば反映させることができるようになってきました。いまだに提出物を忘れることがあるのは、おそらくどこかで「まあどうにかなるやろ」とか「別に大したことないか」という甘えが残っているからでしょう。


最後に、私はほぼワンオペ育児ということもあり「妻としての基準」が非常に低いところにあっても許されているという、一部では恵まれた状況にあることも付け加えておきます。多くのお母さんは、自分の中の母親像に加えて、旦那さんやお母さん、義理のお母さんなどの基準も背負い込んでもっと肩身の狭い思いをしているかもしれません。


そういう場合は、本当は相手は何を期待しているのか確認してみたり、相手の期待に応えられなかったらどうなるのか想像してみたりすると、発見があるかもしれません。


子供を育てるということは、時間的にも体力的にも、また精神的にも重労働です。人類はずっと当たり前にやってきたことだから、と軽視する声もあるかもしれませんが、昔は大家族や村単位で子供を育てていたわけで、これまでの歴史でこんなに母親が孤立していたことはないでしょう。ですから母親というのは大変なんだということをまずは母親自身が認識して、自分の母親としての基準というものが実現可能なものかどうかを一度見直してみると、なにかヒントになるかもしれません。

2022/12/03

Positive Intelligence

ご無沙汰していました!母親業に時間を取られなかなか更新できずにいました・・・

さて、今日は人間関係や仕事、恋愛、子育てなど様々な場面で役立つPositive Intelligenceという概念を紹介します。

Positive Intelligence(PQと略す)はシャザード・チャミン氏のベストセラーのタイトル(邦題「スタンフォード大学の超人気講座 実力を100%発揮する方法」)でもあり、知能指数IQや心の知能指数EQとはまた別の「真の実力を発揮するために必要な能力」とでも言いましょうか。アンガーマネジメントや、日常のイライラ、傷ついたり落ち込んだり、といった負の感情を処理できるとても簡便な方法でもあります。

私がthe Life Coach Schoolで学んだコーチングの手法は、自分の脳の潜在的な考えを客観的に見(メタ認知し)たり、隠れいてる感情や気持ちの部分を深く掘り下げていくには非常に優れています。でも、その先の、実際に行動の変化として応用していく部分に関しては、コーチがちょっとだけ提案することはあっても、あえて具体的な指示を控えます。理由は「一番いい方法」というのが人によって全く違い、コーチが自分の経験に基づいて指示をしてしまうと、クライアント自身の細かい状況に合ったもっと良い方法が埋もれてしまう危険性があるからです。ただ私の実感として、日本で生まれ育った人(特に男性)は、欧米育ちの人をコーチングしている時と比較して感情や気持ちを意識するということのハードルが高く、目を向けること自体に抵抗すらあるような印象があります。

一方でPQは非常に実践的な概念です。鍛えて育てることもできて、トレーニングの所要時間も10秒単位なので忙しい日常の中でも実践できて、即効性も実感できます。したがってコーチングに馴染みがない人にも自信を持ってお勧めできます。

Positive Intelligenceの考えでは、いつでも実力を発揮できている人というのは稀で、ほとんどの人は実力を発揮することを自分自身の脳が無意識に妨害してしまっているそうです。脳が自分自身を危険から守ろうとする原始的な反応で、子供の頃には我々を危険から守ってくれていたものです。でも大人になってからは重要性が減って、場合によっては害になってしまっているということです。どのように妨害しているかは、その人の生い立ちや性格によって違いますが、大きく分けて10種類の方法に分類されます。

主たる妨害者(Saboteurサボター)はJudge(審判/批判者)で、誰にでも多少なりとも潜んでいると言います。「こんなのじゃダメだ」「なんであの人はこんなに〇〇なんだ」「私はいつも失敗してばかり」のような批判的な心の声はこのJudgeによって発せられています。自分に厳しい人、あるいは他人にも厳しい人というのは、このJudgeの声が強い人かもしれません。子供はこのJudgeによって世の中の正悪や、注意しなければならない危険などを見分けることを覚え、世の中に潜む様々な危険から我々を守ってくれる役割があったのでしょう。しかし、大人になってもこの声が強いと、例えば仕事上の失敗を気に病み、その後のパフォーマンスの妨げになってしまうかもしれません。あるいは失敗を恐れて新しいことに挑戦しにくくなるかもしれません。またJudgeが他人に向けられると、相手はそれを感じとるので、いつの間にか敬遠されてしまう原因にもなり得ます。

Judge以外の妨害者はaccomplice(共犯)と呼びますが、avoider(優柔不断)、controller(仕切り屋)、hyper-achiever(優等生)、hyper-rational(理屈屋)、stickler(潔癖症)、pleaser(八方美人)、hyper-vigilant(怖がり)、restless(移り気)、victim(被害者)に分けられます。ウェブで質問票に答えると自分のサボターのランク付けがわかります。日本語が若干怪しいですが、5分ほどでできるので、興味があればぜひやってみてください。

妨害者の一方で、脳にはSage(賢者)と呼ばれる能力もあります。賢者は脳の中の理知的な声で、explore探究心、empathize共感する力、innovate革新、navigate航海、activate行動からなります。妨害者の声を減らし、賢者の声を発掘することで、眠っている実力を発揮しやすくなるということです。

もちろん実力を発揮することも大事なのですが、私自身はPQが人間関係に応用できることの方がすぐに実感できました。妨害者が活発な状態で人と接すると、その人の中の妨害者を刺激してしまいます。付き合いはじめはラブラブだったカップルが、数年経ったら喧嘩ばかりしている、という例をとってみましょう。はじめは共感や探究といった「賢者」優位だった二人の関係性が、徐々にお互いの妨害者が顔を見せるようになったという捉え方ができます。相手が根本的に変わったというよりも、何かがお互いのサボターを刺激してしまっている悪循環の状態なわけです。そう思うとまだこのカップルの関係は修復可能な気もします。

私の場合は今まで「苦手」と思っていたような人も、実はその人自身が悪い人というわけではなく、その人のサボターが強力なんだという理解に変わりました。不幸な出来事が続いて医療不信になってしまっていたりで、攻撃的な患者さんやその家族と面談をする機会は、医療者なら度々あると思います。以前はただただ「避けたい」と思っていましたが、今では少し違います。相手がなぜ攻撃的になっているのか、共感を持って想像すると、大体は自身の身体や仕事、家族の将来についての不安が火種になっています。自分にも不安があります。怒鳴られたら嫌だな、変なこと言って火に油を注いで、それでこのあと長引いたらどうしよう、訴えられたらどうしよう、他のスタッフに迷惑がかかったら、などなどといった不安は、自分の中の妨害者を刺激し、それが引き金で相手の妨害者も刺激してしまいます。こういった自分の中の不安を生んでいる考えから一旦距離を置いて、自分の置かれた状況でできる最良の対応を落ち着いて考えることができる(探究心)と、自然と相手の攻撃性が徐々に薄れ、お互いのストレスが減り、ひとまず平和に解決する、という経験を何度かしました。

妨害者や賢者に関する各論は本を読んでいただいた方が面白いと思うので今回は割愛します。本を読む時間はないな〜という方のために、チャミン氏がTEDで講演した動画(20分)もあったので、紹介しておきます。

PQを使ったコーチングの無料体験も受け付けていますので、興味がある方はぜひ予約してくださいね。

体調不良のとき

こどもが集団生活で感染症を持ち帰ることは日常茶飯事ですが、親もそれをもらってしまうことだってあります。いくら感染予防の知識があっても、きちんと実践するだけの余裕がなかったり、添い寝していれば、夜中知らない間に顔が急接近していたり・・・あるいはホルモンバランス、加齢にまつわる様々な...